日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)

僕ならこの著書に「家系的価値観からの解放」と副題をつける。

「最初の新人は、どれくらいの人数がいたのでしょうか。私たち現代人が持つ遺伝的な多様性の少なさは、(中略)現在では六〇億という巨大な人口を持つ現代人も、もとはごく少数の集団から出発したと想定しているのです。DNAデータを用いたこれまでの研究では祖先集団の大きさとしては、数千人程度という数が推定されています。」
「長い人類の歴史のなかで最初の出アフリカは非常に重要な一歩でした。その様子はどのようなものだったのでしょうか。(中略)最近のDNAを用いた研究では、最初にアフリカを旅立った人数を一五〇人程度と見積もっているものもあります。アフリカ以外の世界中の人々は、極めて少ない集団から派生したようです。」

そして

「日本人の起源を考えるときには、私たちは無意識のうちに現在の日本の国土を意識します。朝鮮半島など周辺の地域は最初から別の歴史があると考えてしまいますが、この問題はそもそも国境もない時代のヒトの移動を考えているのですから、そのような偏見を取り去って考える必要があります。DNA分析の結果を見ていると、少なくとも北部九州地方と朝鮮半島の南部は、同じ地域集団だったと考えたくなります。そうであれば、二重構造論の枠組みの中に、朝鮮半島南部まで含めて考えたほうが実際のヒトの動きを理解しやすくなるでしょう。私たちは自身の由来を考えるとき、「日本人の起源」に囚われずに、朝鮮半島の南部や沿海州などを含めた東アジアの東端における集団の成立を考えることが必要なのかも知れません。」
縄文人と渡来系弥生人に見られる明らかなハプログループ頻度の違いは、両者が系統を異にする集団であることを示しています。ともに独自のポピュレーションヒストリーを持っていたと考えられるのですが、このことはさらに、現代日本人が在来系の縄文人と渡来系の弥生人の混血によって成立したという、混血説(二重構造論)を強く支持しています。」

考古学者と人類学者の意見の違いも紹介しつつ、著者はこのように述べている。
個々の家系のルーツや日本の国家権力成立と権力者のルーツへの関心は尽きない。だがそれは、現在の枠組みから過去を見る過ちを伴っていないか。その足かせが社会的には、科学的認識への障害になっていないか。
座標軸をひっくり返して視ることを、僕は学んだ。