米国はやっぱり米国

沈黙の春 (新潮文庫)

沈黙の春 (新潮文庫)

この古典的名著の中ごろにこんなくだりがある。
「ひろい範囲に死をもたらす力のある化学薬品がいろいろあらわれてくると、政府関係者のヒアリに対する態度が急に変わった。そして、1957年、合衆国農務省は、史上まれなPRにのりだした。パンフレットを出したり、映画をつくったりしては、集中攻撃を加えて、このアリは南部の農業の略奪者、鳥や家畜や人間の殺害者ということになった。そして、大規模なヒアリ駆除計画が発表された。中央政府ヒアリの被害のある州が合同して、南部の九つの州二千万エーカーに徹底的に薬品を撒布しようというのである。」
「大当たり(つまり大もうけ)した連中をのぞけば、この防除計画ほどみんなの非難を受けたものはない。・・・莫大な費用がかかったばかりではない。多くの動物の生命を奪い、また農務省の信用をおとすという高価な犠牲を払った。」
この前の著述を読まなければリアリティが薄いかもしれないが、著者は戦後の米国における大量の農薬撒布が植物、動物、そしてその一種である人間にどれほどのダメージを与えたかを繰り返し指摘している。そしてこのヒアリ駆除作戦というわけだ。
ここで「ヒアリ」を「イラク」に置き換えて読んでみた。驚くことにこれはまさにブッシュ政権が「大量破壊兵器」を口実にはじめた戦争にそっくり当てはめることができるのだ。
著者は指摘する。「ヒアリ」にはたいした害はないのだ、それは専門家の研究によって実証済みだと。
そして、野生生物への深刻な被害が引き起こされた。
あらゆる種類の「雑草」「害虫」を次々と対象にあげては、同様の愚行が延々と繰り返されたのだ。

僕は「アメリカ」の価値観の多様性、幅の広さはとっても好き。
しかし、著者が指摘するような極めておろかな性癖が変わることなく持続してきたことも事実。
さらに、著者のような知識人が存在し、自然破壊に警鐘をならすベストセラーを生み出したことも歴史的事実。
今も変わらず米国は米国。面白くて、そしてものすごく愚かな国。
オバマで変わるのか、な?