生き物たちの東日本大震災

巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)

巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)

本題よりも副題のほうがふさわしい気がする。
とにもかくにも著者永幡さんの生きものへの愛情が伝わってくる著書。

著者は東北の自然の豊かさに魅せられて移り住んだという。
最初から最後まで掲載されたたくさんの写真(ほとんどが日付つき)がそのことを何より物語っている。
これだけ被災地を歩いた人はいないのではないか。
だから、人間の被災状況にも詳しいはずだが、そのことには触れられない。

もちろん「『いまこんなことをしていていいのか』と、消化できない多くの感情を胸中に引きずって過ごしていた」が、視線は植物や虫に向き続けている。

まず最初に「東北地方の『豊かさ』とは」と始まり、この地の特徴が説明される。
そのあとはずっと、著者の観察記録がつづく。ずっとずっとつづく。

ヒヌマイトトンボやアカヨシヤンマやコガネグモニホンアカガエルクロマツやオニグルミやアブラムシやテントウムシやアメンボやコアジサシやルリボシカミキリやコガネムシやスズムシや・・・数えきれない生き物たちが語る。生き物たちをして著者は次の最後の一言を言わせたかったのだ。

「復興とは、東北地方に『豊かさ』が戻ることだ。」「即物的なものにばかり目を奪われず、そこで生まれ育った人びとが懐かしさを感じるような、そして土地の表情を次代に引き継ぐような復興であってほしい。」と。

そのとおりだと、僕も思う。