海と真珠と段々畑

海と真珠と段々畑

海と真珠と段々畑

松山に住む老父母のもとへ通う、そんな歳に僕もなった。
選挙での遠征も含め地方の空港を使うと、必ずその地の書籍を扱う書店が設けられている。松山空港にもそんなコーナーがあり、様々なテーマに心惹かれる。帰るたびに必ずなにか求めずにはおれない。
ただし、扱うテーマは様々で、中には細かな歴史資料を並べたマニアックなものもある。何とか地域おこしに役に立とうと、ちょっとすべり気味のものもある。
そんななかで「宇和海を舞台にした、真珠養殖を営む家族の物語」と副題にあるこの著書は、こころに残った。
愛媛県の南西の端。リアス式海岸のつづく宇和海の貧しくて厳しい生活が描かれる。段々畑での農作業は、その美しさと対比的にとってもシビアなもの。そこにふって湧いたのが真珠の養殖。だが、目先の利益を追い求めるあまり、過度の養殖を進めた結果、海は汚され、養殖は大打撃を受ける。
全国各地の「原発村」と、本質的には同じ構図が、ここにもある。少し長いが、あとがきから引く。
「とはいえ、この物語が投げかける問いかけは、宇和海の人たちにとって少しつらすぎるかもしれない。豊かさを追い求めるあまり、大切なものを犠牲にしてきたのはここだけではなく、全国いたるところに同じような話があった。けれどもこれを『みんな、やったのだから』という言い訳にしてしまえば、大きな犠牲を払った意味がない。つらくてもこの出来事を直視し、どうしたら持続可能な海や産業にすることができるかを考えなければ、この地域に未来はない。」「南予の人たちが元気を出して次の代に真珠養殖をバトンタッチできるよう、心から祈りたいと思う。」
僕より10年はやく生まれたこんな女性ジャーナリストが、故郷で活躍していることを、誇りに思う。