続き

織田信長 (人物叢書)

織田信長 (人物叢書)

意図したわけでは全くないが、前回の「秀吉と海賊大名」の続きになってしまう。
「私の立場は、民衆のために平和=統一をめざしたかのごとき権力像を描こうとするものではなく、また、敗者・抵抗者を歴史の『進歩』を見誤った愚者のように扱うものでは決してないことを表明しておきたい。」
このように、まえがきから著者の立場は明快である。

日本歴史学会編集の人物叢書の中の一冊であるから、その歴史考察は具体的になされる。著述の3分の2は、信長の30年に及ぶ戦争の延々とした記述(の印象)。改めて、とてつもなくたくさんの人びとを殺戮した独裁者であることを否応なく思い知らされる。
そして、信長に歴史的進歩性があるとすれば、関所撤廃、「楽市・楽座」などの流通・都市政策であること。
しかし、農政・民生の面ではみるべきものはないことが指摘される。「検地」が実行されたのはわずかで、「百姓と直接向き合い、百姓の生産や暮らしをみつめて百姓支配の政策を生み出そうとすることのなかった信長」には「村や百姓支配に関わって発給した文書はほとんどないのである。」と。


「秀吉と家康は死後の早い時期に神として祀られたが、信長は明治政府のもとでようやく神として祀られることになった。勤王の士として顕彰しようというものであった。(健勲神社が建てられたのは)明治政府の政策の所産である。」


そういえば靖国神社の前身「東京招魂社」の創建が決まったのが明治2年。「健織田社」創設が決まったのも同年である。

・・・話が空中に行ってしまいそうなので戻すと、前回「秀吉と海賊大名」で読んだ僕の故郷瀬戸内の海賊掃討と、信長の「天下統一」はもちろん直接つながっている。


信長の征服は、戦国時代に築かれた地域権力体系と地域秩序を破壊するものであり、「もっとも大きは破壊は人的破壊だったのではないだろうか」と著者が指摘することの重みを、あらためてかみしめる。